アルミナとジルコニアセラミックス:最適なセラミックス材料の選定

アルミナセラミックスとジルコニアセラミックスの強度、硬度、靭性、耐摩耗性、耐熱性、加工性などの特性を詳しく比較し、半導体、医療機器、精密機械、産業部品などの具体的な用途に応じた最適な材料選定のポイントをわかりやすく解説します。材料選びの判断基準や注意点も整理しており、製品設計や工業用途での意思決定に役立つ情報を提供します。

はじめに


高性能セラミックスの分野において、アルミナ(Al₂O₃)セラミックスとジルコニア(ZrO₂)セラミックスは、広く用いられている代表的な材料です。これらは、高硬度、優れた耐摩耗性、耐食性、ならびに良好な化学的安定性を特長とし、半導体、医療機器、フラットパネルディスプレイ、石油化学、エネルギー、産業機械、電子通信、食品・農業など、幅広い分野で重要な役割を担っています。


一方で、両者を詳しく比較すると、機械特性、熱特性、破壊靭性、コスト、用途・適用条件などの点で大きな違いがあることが分かります。本稿では、複数の観点から両材料の特性を比較し、具体的な用途における合理的な材料選定の一助となる情報を提供します。

アルミナとジルコニアセラミックス:最適なセラミックス材料の選定

機械特性の比較:硬度と靭性


アルミナ(Al₂O₃)セラミックスは、一般に高い硬度と優れた耐摩耗性を有し、緻密化した微細組織により、連続摩擦や粒子によるエロージョン(摩耗)環境下でも安定した性能を示します。一方で、アルミナの破壊靭性は代表的な構造用セラミックスの中では相対的に低く、衝撃荷重や局所的な応力集中を受けると脆性き裂が生じやすい傾向があります。したがって、アルミナセラミックスは、静的負荷または低衝撃が主体となる部材に適しており、例としてチャンバー/ドーム部材、セラミックノズル、真空吸着パッド(真空チャック)、セラミックアーム/エンドエフェクタ(Ceramic End Effectors)、セラミック絶縁部材、エアベアリングステージ、セラミックブレード等が挙げられます。


これに対し、ジルコニア(ZrO₂)セラミックスは硬度がアルミナよりやや低い一方で、破壊靭性が高い傾向があります。これは主に「相変態靭化(transformation toughening)」と呼ばれる機構によるもので、材料内部に微小き裂が生じた際に結晶構造が局所的に変化してエネルギーを吸収し、き裂進展を抑制します。この特性により、ジルコニアは動的負荷、振動、衝撃が繰り返される環境で優位性を発揮し、ジルコニア製プランジャー、リフティングカップ(Lifting Cup)、セラミックブレード、セラミックベアリング等に用いられます。

性能指標

アルミナ(Al₂O₃)

ジルコニア(ZrO₂)

ビッカース硬度 (HV)

高い

低い

圧縮強度 (MPa)

低い

高い

破壊靭性 KIC (MPa·m0.5)

低い

高い

脆性挙動

高い(耐衝撃性に限界)

中程度(相変態靭化によりき裂進展を抑制)

熱特性:高温安定性と耐熱衝撃性


アルミナ(Al₂O₃)セラミックスは、一般に高温での構造安定性に優れ、高温プロセス部品や高温環境下で使用される構造部材に適しています。また、熱伝導率が比較的高く、装置の放熱を促進して局所的な過熱を抑えるのに寄与します。一方で、熱膨張係数は低いものの、急冷・急加熱を伴う熱衝撃環境ではき裂が生じやすい傾向があるため、急激な温度変化が想定される条件では温度制御や形状(肉厚差・角部など)への配慮が重要です。


ジルコニア(ZrO₂)セラミックスは熱伝導率が低く、構造用の断熱材料として有効で、断熱パッドや断熱リングなど、熱の伝達を抑える用途に用いられます。熱膨張係数は高いものの、相変態靭化機構により、急冷・急加熱環境下でもき裂進展が抑制され、耐熱衝撃性に優れる点が特長です。そのため、熱衝撃負荷が大きいポンプシャフト、弁芯(バルブスプール)など、温度変動と機械負荷が重なる部品で選定されることがあります。


  アルミナ:高温適応性が比較的高い/熱伝導率が比較的高い/急激な温度変化では熱応力と形状設計に注意
  ジルコニア:熱伝導率が低い/破壊靭性が比較的高い/熱衝撃・負荷変動の条件で有利になりやすい


熱特性(一般的な傾向)
●  推奨長期使用温度:アルミナ=高い傾向/ジルコニア=低い傾向
●  熱膨張係数:アルミナ=低い/ジルコニア=高い
●  熱伝導率:アルミナ=高い/ジルコニア=低い
●  耐熱衝撃性:アルミナ=低い(急冷・急加熱で割れやすい傾向)/ジルコニア=高い(耐き裂性に優れる)

熱特性

アルミナ(Al₂O₃)

ジルコニア(ZrO₂)

推奨長期使用温度

高い

低い

熱膨張係数

低い

高い

熱伝導率

高い

低い

耐熱衝撃性

低い(急冷・急加熱で割れやすい傾向)

高い(耐き裂性に優れる)

電気特性の比較:高周波絶縁特性と酸化物イオン導電特性


アルミナ(Al₂O₃)セラミックスは、電子産業で広く用いられている代表的な絶縁セラミックスです。高い体積抵抗率と優れた耐電圧(絶縁破壊強度)を有し、高電圧環境下でも絶縁破壊、漏電、短絡のリスク低減に寄与します。さらに、誘電損失が小さく高周波特性に優れることから、高周波回路基板、マイクロ波部品の窓材、高圧真空フィードスルー(Feedthrough)、精密センサのパッケージ用途などに適しています。


ジルコニア自体も絶縁体ですが、ドープ(Y₂O₃やCaOによる安定化ジルコニアなど)を施すことで酸素イオン導電体となり、高いイオン導電性能を実現できます。この特性により、ジルコニアは固体酸化物形燃料電池(SOFC)、酸素センサ、ガス分離器、および次世代エネルギー用電気化学デバイスにおいて広く応用されています。同時に、ジルコニアは誘電率が高く、構造強度と電気的性能の双方を活かしたコンデンサや特殊電子部品にも使用されます。
ジルコニア(ZrO₂)も常温では良好な絶縁性を示しますが、電気特性は用途により特徴が分かれます。まず、ジルコニアはアルミナより誘電率が高く、特定のコンデンサ部品やシールド用途で利点となる場合があります。一方、低誘電損失を重視する高周波基板材料としては一般にアルミナが選好されます。さらに、Y₂O₃やCaOなどによる安定化(ドーピング)を施したジルコニア(例:YSZ)は、高温域で酸化物イオン導電性を示し、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、高温酸素センサ、ガス分離・電気化学デバイス、冶金用の酸素プローブ等に利用されます。


選定の目安
  高電圧絶縁/高周波部品:安定した絶縁性と低誘電損失が得やすいアルミナを優先
●  酸化物イオン導電/電気化学用途:イオン伝導と機械信頼性の両立が期待できる安定化ジルコニア(YSZ等)を選択
電気特性(一般的な傾向)
●  体積抵抗率:アルミナ=高い(電気絶縁性が高い)/ジルコニア=本質的には絶縁性だが、組成・ドーピングにより一定温度域でイオン導電性を示す体系がある
●  耐電圧(絶縁破壊強度):アルミナ=高い/ジルコニア=一般的
●  誘電損失(高周波):アルミナ=低い/ジルコニア=高め(組成・ドーピングに依存)
●  高温での安定性:アルミナ=比較的安定/ジルコニア=良好だが、高温域では相安定性に留意

電気的性能指標

アルミナ(Al₂O₃)

ジルコニア(ZrO₂)

体積抵抗率

高い(電気絶縁性が高い)

本質的には絶縁性だが、組成・ドーピングにより一定温度域でイオン導電性を示す体系がある

耐電圧(絶縁破壊強度)

高い

一般的

誘電損失(高周波)

低い

高い(組成・ドーピングに依存)

高温での安定性

比較的安定。温度上昇下でも性能が安定

良好だが、高温域では相安定性に留意

耐摩耗特性の比較:高硬度による耐摩耗と高靭性による耐摩耗


耐摩耗特性において、アルミナ(Al₂O₃)セラミックスの強みは、高硬度に起因する優れた耐摩耗性にあります。表面硬度が高いため、長期的な摺動摩擦、粒子によるエロージョン、連続運転などの条件下でも摩耗量を低く抑えやすく、ノズル、耐摩耗スリーブ(ブッシュ)、シールリング、研磨媒体などに用いられます。運転条件が比較的安定しており、設計上応力集中を避けられる場合、寿命は安定しやすい傾向があります。
一方、ジルコニア(ZrO₂)セラミックスは硬度がアルミナよりやや低いものの、破壊靭性が高く、局所的な応力や軽微な衝撃によるき裂が生じにくい特長があります。そのため、振動、偏荷重、動的疲労、断続的な衝撃が伴う摩耗条件では、ジルコニアの方が全体として信頼性が高く、破損リスクを低減しやすくなります。このことから、精密プランジャー、弁芯(バルブスプール)、ベアリングボールなどの動的な重要部品に採用されるケースが多く見られます。


選定の目安
●  摩耗が主因で、かつ運転条件が安定:アルミナが有利
●  摩耗に加えて衝撃や負荷変動がある:ジルコニアが有利

耐摩耗に関する指標

アルミナ(Al₂O₃)

ジルコニア(ZrO₂)

表面硬度

高い

高い(通常、アルミナよりやや低い))

摩耗メカニズム

アブレシブ摩耗、微小切削・プラウイング等が生じやすい

凝着摩耗・微小摩耗と表面損傷が併存しやすい(相変態靭化等によりき裂進展が抑制される場合がある)

衝撃摩耗下

切り欠きや衝撃に敏感であり、脆性破壊のリスクがある

欠け・切欠き・衝撃に敏感で脆性破壊リスク

靭性が高く、耐チッピング・耐き裂性で有利

長期の安定摩耗条件

適性が高い(連続・安定摩擦)

動的・複合条件で有利になりやすい

化学的安定性の比較


化学的安定性の観点では、アルミナ(Al₂O₃)セラミックスは多くの中性環境および一部の酸性環境で比較的安定した挙動を示し、高温下でも構造と特性を維持しやすいことから、半導体装置、化学工業用部品、高純度プロセス系などで広く用いられています。


一方で、アルミナの耐薬品性は薬液・ガスなどの系に強く依存します。含フッ素系薬品(例:HFを含む系)や、一部の強アルカリ環境、高温腐食条件では耐食性が制約される場合があるため、選定時には対象薬品とプロセス条件範囲に基づく適合評価が重要です。


ジルコニア(ZrO₂)も、一般的な酸性および中性環境で良好な化学的安定性を示します。ただし、高温の強酸(例:濃硫酸、フッ化水素酸)や高温の強アルカリ条件では、組成・安定化体系によっては高純度アルミナに比べて耐食性が不利となる場合があります。さらに、ジルコニアは高温水蒸気などの湿熱環境下で**低温劣化(LTD)**が生じ、強度低下につながる可能性があるため、湿熱条件での材料選定では特に留意が必要です。


選定の目安
●  強腐食性環境/高純度プロセス環境:一般に アルミナ が堅実
●  特殊な使用雰囲気や高靭性の両立が必要:条件によって ジルコニア が有利

化学環境/稼働環境

アルミナ(Al₂O₃)

ジルコニア(ZrO₂)

強酸環境(常温〜昇温)

多くの酸性媒体で比較的安定。ただし含フッ素系は重点評価が必要

多くの酸性媒体で比較的安定。組成・安定化体系により耐性が変動

強アルカリ環境(昇温/高温)

一部条件で使用可能だが、高温強アルカリでは検証が必要

高温強アルカリでは慎重な適合性検証が必要

半導体プラズマ環境

ガス系に依存。含フッ素/含塩素など強腐食系は評価、またはより耐食性の高い材料選定が必要

ガス系に依存。条件によって使用可能だが、安定化体系と腐食機構を踏まえた評価が必要

高速流体 + 粒子エロージョン

耐摩耗性は良好だが、衝撃・応力集中条件ではチッピング/脆性破壊リスク

靭性が高くチッピング耐性で有利。耐摩耗は工況と対向材の影響を受ける

応用例


アルミナ(Al₂O₃)の応用例:
(1)  半導体製造装置: エッチングチャンバー(ドーム部材)、ウェーハ用真空チャック、絶縁リング、インシュレータ、エアベアリング用ガイド、セラミックアーム
(2)  ケミカルプロセス機器: セラミックノズル、耐摩耗ライニング(ライナープレート)、耐摩耗配管部材
(3)  精密機械: プーリー(滑車)、ベアリング、研磨メディア(粉砕ボール)
(4)  電子部品: インシュレータ、回路基板、パッケージ用セラミック部材
(5)  食品・農業: セラミックブレード(刃物)


ジルコニア(ZrO₂)の応用例:
(1)  医療機器: セラミックプランジャー(注射・注入用)、リフティングカップ(Lifting Cup)、人工関節、歯科修復材料(クラウン・インプラント)
(2)  精密機械部品: ポンプシャフト、バルブコア(弁体)、シール材
(3)  工業用工具: 耐衝撃切削チップ(インサート)
(4)  高級消費財: 時計ケース(セラミックウォッチ)、ジュエリー(装飾品)

応用例

加工プロセスとコストの比較


アルミナ(Al₂O₃)
(1)  原料コスト: 原料の供給源が広く、価格は比較的安価であるため、大量生産に適しています。る
(2)  加工特性:硬度は高い一方で脆性が大きく、焼結後の精密研削ではチッピング(欠け)や微小き裂が生じやすいため、研削条件・工程管理の安定性が重要である。
(3)  適用プロセス: 乾式プレス成形、射出成形(CIM)、流延成形(テープキャスティング)などの成熟した工法があり、比較的形状が単純な部品に適している。


ジルコニア(ZrO₂)
(1)  原料コスト: 原料価格は通常、アルミナの数倍で,また、粉末粒径や安定化剤(ドーパント)の分散・分布管理が重要である
(2)  加工特性: アルミナより硬度はやや低いものの、靭性に優れ、グリーン体(焼結前)では複雑形状の切削加工が容易である。焼結後はチッピングが起きにくい一方で、材料が緻密かつ強靭であるため、研削時に砥石の目詰まりを起こしやすく、加工効率が低下しやすい傾向がある。
(3)  適用プロセス: 冷間等方圧加圧成形(CIP)、射出成形(CIM)、および医療分野で広く普及しているCNC切削加工(グリーン加工後に焼結)などが適している。

氧化铝 (Al₂O₃) VS 氧化锆 (ZrO₂):材料選定のまとめ

性能カテゴリ

氧化铝(アルミナ)の特長

氧化锆(ジルコニア)の特長

硬度

高い

比較的低い

破壊靭性

低い傾向

高い傾向

熱特性

熱伝導率が高く、耐熱温度も高い

断熱性に優れ、耐熱衝撃性が高い傾向

電気特性

高い絶縁性

安定化(例:YSZ)により酸化物イオン導電性を付与可能

耐摩耗・耐食性

強腐食環境+定常摩耗条件で選定されやすい

衝撃摩耗 疲労荷重環境に最適

加工とコスト

工法が成熟し量産に適し、コスト管理がしやすい傾向

原料・工程管理の要求が高く、高精度・高一致性用途ではコストが高くなりやすい


(1)  アルミナ(Al₂O₃):高硬度、高い絶縁性、耐熱性、コスト優位。静的条件・定常摩耗・絶縁部材に適する。
(2)  ジルコニア(ZrO₂):高靭性・高強度、断熱性、(安定化系で)酸化物イオン導電性。動的条件・衝撃・複雑応力・断熱用途に適する。

以上のとおり、アルミナとジルコニアはいずれも先進セラミックス材料であるが、性能の重み付けと適用条件が異なる。力学特性、熱特性、電気特性、ならびに化学的適合性の違いを把握することで、材料選定のブレを抑え、性能とコストのバランスをより適切に最適化できる。


材料選定のご相談や、評価用サンプルをご希望の場合は、JFMまでお問い合わせください。JFMの技術チームが、具体的な使用条件および設計要件に基づき、適切な材料提案とプロセスソリューションをご案内します。

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